北海道で働く理学療法士のブログ

北海道で理学療法士をしている男の備忘録&日記です

患者との目標共有

今日,担当している脳卒中後の患者が,初めて床から台を使用せずに立ち上がれた.

なかなか上手くできていなかったので,立てた時は本当に嬉しかったし驚きました.

 

でも,できたこと以上に驚いたのが,患者本人が嬉しくて泣いていたことでした.

80歳を超える男性.非常に真面目であり,普段は少し気難しい顔をしながら,

一生懸命にリハビリテーションに取り組んでいる方が,顔を崩して泣いていた.

 

その時,正直に私が感じた一番の感想は,

『床からの立ち上がりができたことを.そこまで嬉しく感じるんだ』でした.

もちろん,できなかった動作ができたことは喜ばしいことです.

でも,私のなかでの床からの台を使用しない立ち上がり動作の達成は,

そこまで優先順位は高くなく,患者と私の間で共有している目標はもっと他のところだ

と感じていたのです.

 

患者の涙を見た時に私が感じた感想は,患者のなかでの『できないこと』への想いと,

それが『できるようになる』喜びや目標を共有できていなかったからこそ,

湧いてきたものだと思います.

 

普段,周囲の人に患者ときちんと目標を共有しようと言っているのに,

自分はどこまでそのようなことができているのかを反省した一場面でした.

論理的思考と臨床推論(クリニカルリーズニング)

いま,理学療法の世界には多くの勉強会や研修会が溢れています.

どの手法やテクニックが優れている劣っているということは,もちろんないです.

しかし,特定の研修会で得た知識や技術を妄信的に使う理学療法士

少なからずいることが,気になってしょうがないんです.

 

私は大学院で神経生理の研究室にいたのですが,そこで得た知識がそのまま臨床に

生きることは,正直それほど多くないです.

しかし,そこで学んだ因果関係を証明するための論理的思考や手順は,

本当に臨床に生きていると感じています.

 

患者に起きている現象の原因はなんなのかを,評価に基づき特定していく

『臨床推論』はまさに研究で因果関係を『論理的』に証明する考え方と同じです.

 

この『論理的思考』に基づく『臨床推論』を自分自身がいかに着実に行っていくか,

その大事さを後輩や学生に,いかに伝えていくか.

まだまだ考え,実践し続けないといけないテーマです.

 

実際には,人間の身体運動は非常に多くの事柄から影響を受けるので,

本当の意味での因果関係の証明は難しく,経験に基づく暗黙知によって

ある程度はあたりをつけないといけない場面も多いです.

それでも,その難しさから逃げることだけはしないように,

日々精進していきたいです.

 

最初に書いた,ある手技やテクニックを妄信的に使う理学療法士は,

この『論理的』に『臨床推論』を行うことから逃げているように,

私には思えてしょうがないのです,

 

どうでしょうか??

 

【書評_追記】内部モデルと歩行トレーニング

昨日紹介した『脳卒中片麻痺者に対する歩行トレーニング』の中で

京都大学の大畑先生がロボットアシスト歩行トレーニングに関して,

非常に興味深い記載をしていたので,少しだけ自分なりに整理してみる.

 

運動制御・運動学習の理論の一つとして,内部モデルがある.

内部モデルの考え方では,

脳内にはキネマティクスからキネティクスを演算する逆モデル

キネティクスからキネマティクスを演算する順モデルがあると仮定している.

 

この二つのモデルから,人間は適切な運動プログラミング(キネティクス)を立てて,

かつ演算された感覚入力(キネマティクス)と実際の感覚入力を比較して,

さらなる内部モデルを形成する.

 

脳卒中により運動麻痺などの障害が生じると,目標とするキネマティクス

演算されたキネティクスでは達成されなくなる(逆モデルが障害される).

さらに,目標とするキネマティクスが達成されないので,出力したキネティクス

基づくキネマティクスを演算する順モデルも障害される.

その繰り返しにより,内部モデルが間違った方向に変容していく.

これは,臨床的に表現するなら『悪い癖がついた』状態と言えると.

 

さて,そのような状態を打破するにはどうしたら良いか.

ここでロボットアシストの登場.

対象者が間違った逆モデルに基づく運動出力を行ったとしても,

ロボットアシストにより正しいキネマティクスに補正することで,

正しい感覚入力を発生させることで,順モデルを正常化させ,

さらには逆モデルを修正しよう!という発想です.

 

書籍の中ではロボットアシストの有用性を説明するために記載されていましたが,

装具療法や様々な運動学習場面に適応できる考え方かと思います.

個人的に臨床で難渋する印象がある,間違った学習・癖の修正を,

このような内部モデルに基づいて整理したことはとても分かりやすいと感じました.

 

内部モデルに関しては,まだその存在について議論が続いています.

また,歩行にも内部モデル理論が当てはまると言えるのかは,

今後の基礎研究待ちかと思いますが(報告があればすいません・・・),

非常に興味深い内容でした.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【書評】脳卒中片麻痺者に対する歩行リハビリテーション

11月に仙台で行われた神経理学療法学会学術集会で,

先行販売されていた書籍脳卒中片麻痺者に対する歩行リハビリテーション

を最近読み終えたので感想を.

 

この本は,広南病院の阿部先生と京都大学の大畑先生が編集しているということで

気になって立ち読みして,そのまま会場で即購入してしまいました.

 

さて内容ですが,装具療法を軸に,脳卒中片麻痺者に歩行のリハビリテーションを行う

上で考慮すべき,①基礎理論(神経科学・生体工学・運動学習),②評価

③病期別のトレーニング④装具療法の地域連携

⑤新しいトレーニング戦略(Neuro Modulationやロボット)から構成され,

かなり幅広い範囲がカバーされています.

 

個人的に感じたこの本の特徴は,病期別に装具療法を行う上での臨床的なポイントを

整理している点と,装具療法の地域連携を解説している点かなと思います.

 

病期別のトレーニングでは,臨床で遭遇する諸々の問題への具体的な解決策やアイデア

が提示されています.私は回復期病棟勤務なので,もちろん回復期の内容はすぐに臨床

に生きるような内容でした.

一方,生活期の内容などは,自分が退院させた患者が今後直面する

可能性が高い問題などが説明されており,非常に勉強になりました.

 

地域連携に関しては,著者らの地域での取り組みが紹介されており,

今後,様々な地域でも取り組まれるべき内容かと感じました(実際に私の地域でも

このような取り組みにつながる活動を来年から開始しようと準備しています).

 

もう一点.

大畑先生がロボットを活用した歩行トレーニングの解説をしているのですが,

ここで解説されている内容はロボットリハだけではなく,

運動制御・運動学習理論を踏まえて歩行トレーニングを行う上で,

非常に重要な示唆であるように感じました.

個人的には必読かと思います.

 

幅広い分野をカバーしているので,一つ一つの項目の分量はそれほどでもないですが,

脳卒中片麻痺者の歩行トレーニング(装具療法)の全体像を把握する上では

非常に良い本なのではないでしょうか.

 

なお,仙台の学会中に行われた講演とかなり内容は重複しているので,

学会の復習にもなりますし,参加していない人はこの本を読めば講演内容は

かなりフォローできると思います.

 

 

 

 

 

 

 

ブログ開設の自己紹介

はじめまして!

 

前々から,文章作成とアウトプットのトレーニング,

日々の考えの備忘録としてのブログ作成には興味あったんですが,

急に思い立ったのではじめることにしました.

 

仕事は北海道で理学療法士リハビリテーション専門職)をしています.

主に,脳卒中後に後遺症を持たれた方を対象にしています.

 

このブログでは,理学療法士の仕事に関して思うことや

勉強したことを中心に,日々の生活のことなども色々と書いていこうと思います.

 

アウトプットのトレーニングも兼ねているので,なるべく短時間・高頻度で

記事を作成するようにも頑張っていきたいと思います!